「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進する笹川スポーツ財団(東京都港区赤坂 理事長:渡邉 一利 以下、SSF)では、2021年9月に、小学校1~6年生の第1子をもつ母親を対象とし、子どものスポーツ活動に対する保護者の関与の実態や意識を明らかにする調査を実施しました。
2022年2月に速報値を公開し、「子どものスポーツ活動(クラブ・教室等の団体に所属して行う活動)への保護者の関与は、母親自身が子どもの頃から母親が中心という構造」などの調査結果を発表しました。
今回は二次分析を行い、子どものスポーツ活動を高頻度・長時間の当番でサポートする母親が一部にみられる一方で、当番等に対する大変なイメージにより、家庭によっては「スポーツが選ばれない」可能性が示唆されました。
少子化や家族のあり方の多様化が進行する今、保護者やスタッフだけでなく、競技団体、メディアなどが、「どのような家庭の子どもでもスポーツを楽しめる環境」を考える必要があります。
▼公式サイト
https://www.ssf.or.jp/thinktank/children_youth/2021_report1_02.html
- 調査結果のポイント
1. 保護者組織(当番、係、役員等)がある団体のほうが、活動の頻度が高く、長時間である傾向
・当番等があるクラブ:頻度「週に2~3日」 48.3%、時間(1回あたり)「2時間以上」 29.2%が最多
・当番等がないクラブ:頻度「週に1回程度」72.1%、時間(1回あたり)「1時間くらい」64.5%が最多
2. 保護者組織や当番等に関わる母親のうち、高頻度・長時間サポートする母親は少数
・活動頻度:「週に1日以上」(「週に1日くらい」~「週に4~5日以上」の合計) 7.2%
・活動時間:「3時間以上」(「3~4時間未満」~「5時間以上」の合計) 19.4%
3. 当番を経験するのは一部の母親だが、その大変なイメージが、より多くの母親にスポーツ活動を敬遠させている可能性
・現在当番を担当している母親は7.5%
・当番の負担を理由にスポーツ活動を敬遠する母親は26.1%
- 研究担当者コメント
今回の調査では、スポーツ活動を行う団体における保護者の役割(保護者会、当番、係、役員等)に着目し、団体の活動時間が長いほど保護者の組織や当番も活発であり、一部には高頻度・長時間でサポートする母親がみられる実態を明らかにした。サポートに尽力する母親の存在が改めて浮き彫りになると同時に、実は小学生の母親全体から捉えるとごく少数であることもわかる。どちらかといえば、当番のないスポーツ活動を選択する母親、当番を理由にスポーツ活動を敬遠する母親のほうが多数派である。単純な集計結果ではあるものの、具体的な事例のみで問題が語られる領域に数値で全体像を示した点に、本調査の意義があると考える。
子どもが存分に練習や試合に打ち込めるように、長くスポーツ活動を支えてきたのは、紛れもなく母親たちである。しかし少子化や家族のあり方の多様化が進行する現在において、どの家庭にも同程度のサポートができる保護者がいるとは限らない。「サポートできる保護者の子どもしか活動できないスポーツ」ではなく、「活動したい子どもを保護者やスタッフが持続可能な範囲で支えていく」と発想を転換し、競技団体やメディア、研究者も含めて子どものスポーツ環境を考える必要がある。
【笹川スポーツ財団 スポーツ政策研究所 政策ディレクター 宮本幸子】
調査結果のポイント解説 |
- 1. 保護者組織(当番、係、役員等)がある団体のほうが、活動の頻度が高く、長時間である傾向
図表1・2は、クラブの保護者組織等(保護者会、当番、係、役員等)の有無別の、団体の活動(=普段の練習等)頻度・時間の差である。
保護者組織等のない場合は、団体の活動頻度は「週に1日くらい」が72.1%と最も多く、次いで「週に2~3日くらい」17.8%、「月に2~3日くらい」6.0%である。対して、保護者組織等がある場合の団体の活動頻度は、「週に2~3日くらい」48.3%が最多で、次いで「週に1日くらい」21.2%、「週に4~5日くらい」19.5%となっている(図表1)。
活動時間にも違いがみられ、保護者組織等のない場合では1回あたり「1時間くらい」が64.5%と大半を占めるのに対して、保護者組織等のある場合では分布が散らばり、「2時間くらい」が29.2 %と最も多く、「3時間以上」が21.6%に達している(図表2)。
※小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究2021
- 2. 保護者組織や当番等に関わる母親のうち、高頻度・長時間サポートする母親は少数
図表3・4は、母親自身が保護者の組織や係・当番に関わった頻度・時間である。
頻度をみると、「2~3カ月に1日未満」から「月に2~3日くらい」までの合計が92.7%で、団体の活動頻度(図表1)に比べると少ない傾向にある。これは、大半の母親は自分の係や当番の日、大会や試合の日のみに帯同するためと考えられる。一方で、「週に1日」以上活動する母親(「週に1日くらい」~「週に4~5日以上」の合計)が7.2%と、少数ではあるものの高い頻度で団体をサポートしている母親もいることがわかる。
母親の活動時間に着目すると、「1時間未満」27.8%、「1~2時間未満」31.1%と比較的短時間の群もいる一方で、「3時間以上」(「3~4時間未満」~「5時間以上」の合計)が19.4%となっている。一部の母親は、クラブの活動時間に合わせて長時間のサポートを行っていることが推察される。
注)2021年度、保護者の組織に関わっている母親のみに尋ねている。
※小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究2021
- 3. 当番を経験するのは一部の母親だが、その大変なイメージがより多くの母親にスポーツ活動を敬遠させている可能性
当番をめぐる実態を、「当番をしている母親」「当番はしていないが、スポーツ活動をしている母親」「当番を理由にスポーツ活動をしない母親」「その他の理由でスポーツ活動をしない母親」にわけて、全体の分布を示した(図表5)。対象となる母親全体を母数にすると、現在当番を担当している母親は7.5%にすぎない。しかし、当番の負担を理由にスポーツ活動を敬遠する母親は26.1%にのぼる。
図表5はかなり単純化しており、「当番の負担」を理由にあげていても、実際には子どもの意向や環境面の理由も絡めて判断している家庭もある。反対に「当番はしていないが、スポーツ活動をしている母親」の中には、当番があるクラブを回避してスポーツをする家庭も含まれる。そうした点に注意は必要だが、一部の母親しか経験しない当番の大変なイメージが、多くの母親を、その先にいる子どもたちを、スポーツ活動の機会から遠ざけている可能性が示唆される。
注1)「スポーツ活動をしている」場合の「当番あり」「なし」は、母親が保護者会・役員・当番等に関わったか否かによってわけている。
注2)「スポーツ活動をしていない」場合の「当番が理由になる」「ならない」は、スポーツ活動をしない理由で「保護者の係や当番の負担が大きいから」に「あてはまる」としたか否かでわけている。
※小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究2021
■報告書(全文)
https://www.ssf.or.jp/files/2021_Parents_report.pdf
- 調査概要
【調査名】
小学生のスポーツ活動における保護者の関与・負担感に関する調査研究2021
【調査対象】
対象は小学校1年生~6年生の第1子をもつ母親。複数の子どもがいる場合は第1子について回答。
【有効回答数】
2,400人(対象となる子どもの学年・性別が均等になるよう割付。全学年男女各200名)
【調査項目】
①全体への質問
現在行っているスポーツの種目/子どもの運動能力への期待・満足度/母親自身が子どもの頃の保護者の役割/家庭環境/保護者の属性など
②現在行っている種目がある場合(子どもがスポーツ活動をしている)
所属する団体の種類/実施頻度/保護者の関与:母親の関与・父親の関与、保護者組織の有無、母親のやりがい・負担感、コロナ禍での変化
③現在行っている種目がない場合(子どもがスポーツ活動をしていない)
スポーツ活動をしていない理由/子どもがスポーツ活動する場合の母親の負担感
【調査期間】
2021年9月
【研究担当者】
公益財団法人 笹川スポーツ財団 政策ディレクター 宮本 幸子
公益財団法人 笹川スポーツ財団 政策オフィサー 清水 恵美
- 笹川スポーツ財団「行動するスポーツシンクタンク」
公益財団法人 笹川スポーツ財団は、「スポーツ・フォー・エブリワン」を推進するスポーツ分野専門のシンクタンクです。国、自治体のスポーツ政策に対する提言策定や、スポーツ振興に関する研究調査、データの収集・分析・発信、自治体との共同実践研究などを通し、スポーツで社会課題を解決します。
代表者 : 理事長 渡邉 一利
所在地 : 〒107-0052 東京都港区赤坂1-2-2 日本財団ビル3階
設立 : 1991年3月
目的 : スポーツ・フォー・エブリワンの推進
事業内容:
・生涯スポーツ振興のための研究調査
・生涯スポーツ振興機関との連携事業
・生涯スポーツ振興のための広報活動
URL : https://www.ssf.or.jp/